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【 強き者 】 (冗談じゃないよ……) 半眼になって悲嘆な息を吐く綱吉は、自分より頭二つ分くらいありそうな身の丈の高い屈強な男に胸倉を掴まれていた。 男は見るからに柄が悪く、学ランを着ていたため学生だと判断できたが、私服であったならどこぞのヤクザに間違われていたであろう。 (喧嘩慣れしてるな、コイツ。こういう奴らは痛めつけ方を知ってるんだよなぁ。…厄介な) 鉄錆の香りが脳を刺激する。心臓の鼓動が鼓膜に痺れるような響きを伝え、身体が急激に温まる。 今スグ コイツ等ニ 判ラセテヤリタイ。 誰ガ 強者カヲ。 (あ〜……もう、いっか。今日は『ダメツナ』オフだし。ストレス発散しないとなっ!) 紅く色づく唇を艶美につり上げた。瞳は強く光を放つように輝く。 その変貌に気づかない相手は自分たちの近い未来すら見えずに、暗く愉悦の笑みを深める。 彼ら三人は綱吉を囲い、逃がさぬように詰め寄る。 右から拳が迫る。それをわざとギリギリで避ければ、背後から羽交い絞めするように腕を捉まれた。 すると後ろから肩を引かれ、腹部目掛けて蹴りが飛んできた。 「最後に残ったのはアンタだけだよ。この礼はきっちり返すから」 「はぁ、あっけなくて発散にもならない。ったく、やられ損かよ。くそっ、母さんになんて言おう…」 悪態付きながら帽子を被り直すと、もう彼らなど目もくれずに歩き始めた。 綱吉が消えた路面に面した建物の屋上では人影が動いた。
真正面に来ると、まず隣の獄寺が雲雀に食ってかかる。 「ねぇ話があるんだけど、君だけ来てくれない?煩くて噛み殺してやりたくなるから」 あまりに物騒な提示に慌てて獄寺を教室に行かせ、自分は雲雀と共に応接室へ向かった。 「それで話って…」 扉の閉まった応接室に逃げ場はなく、ただ恐々と視線を惑わせ、身を小さくする。 「とりあえず座ったら。何か飲む?」 向かいのソファに促し、ポットに入っている冷えた緑茶をグラスに注いで、差し出す。 それを見て綱吉は目を細め、今まで纏っていた雰囲気をガラリと変えた。 「痛むんでしょ、頬。冷やすついでに飲めば?」 視線すら合わせず、くすりっと笑む雲雀。 急速に不機嫌になる綱吉は荒々しくグラスを掴むと、茶を口に含んだ。 「やっぱりな。あんただったんだ…」 あの時視線を感じたけれど、正体は薄々気づいていたため、追求はしなかった。ただ面倒であったのを理由に。 「驚いたよ。君、強いじゃない。…ねぇ僕のトコ、来ない?」 とても優雅にカップを傾ける。その唇に最も簡潔でストレートな要求を乗せる。 「はぁっ!?あっはっは、オモシロイ冗談だねぇ! イヤです。それに、あなた馴れ合いは嫌いじゃなかったっけ?」 驚愕に一笑すると、足を組んで背凭れに体を預ける。 「もちろん嫌いさ。でも君は例外」 都合のいい耳なのか、はたまた元から感情表現に疎いのか、断られたことにも動じず、言いたいことだけを口にする。 「僕を退屈させないだろうから」 雲雀の両眼がしっかりと綱吉を捕らえる。 「たぶん、その通りだろうね。…だけど、お断りします。今はまだ辞める訳にいかない」 そう断言すると、グラスの茶を全て煽り、空になったものをデーブルに置く。 「またね、ツナヨシ。今度はいい返事を待ってるよ」 出て行く綱吉の背中に長期に渡る勧誘の挑戦状を宣言する雲雀。 「さぁね」 その返答は濁したもので、クスクスと笑う声を隔てた部屋に残して、綱吉はその場を去った。 end. |